【夢小説】色彩との遭遇(相手:バッター)

ある日、色のある人間を見つけた。
亡霊にでも出くわしたのだろうか?ソイツは蹲りながら静かに泣いている。
プレイヤー以外にも色を持ったヤツがいるんだなと、奇妙に思いながら声をかけた。

亡霊がいるのであれば、速やかに浄化する必要がある。

いつも通りのやり取りであり、特別な感情などはない。
臆病な住民たちの助けを求める声に答える。それは、神聖なる任務達成へと繋がる一歩だ。

声に反応し、ソイツはビクリと体を震わせながらこちらを見上げる――恐怖に塗れたその顔には見覚えがある。
いつも俺を導いていたはずのプレイヤーの顔だ。

「プレイヤー。今日の探索は、ここまでにしよう」

彼女の体力などを考慮すると、これ以上の探索は危険だ。
俺たちと彼女は生きる世界が違うが、肉体のルールまでも異なるらしい。
キューブに手をかざしても体力などは回復せず、アイテムを使用しても肉体に影響はなく
死ねば、それで終わり。蘇生することはできない。

何とも不便な肉体だ。
俺自身も、ジョーカーを使用してくれる他者がいなければ、自己による蘇生は不可能ではあるが
一つだけの命というのはどのような気分なのだろうか?

この世界の住民もバーント化さえしていなければ、ジョーカーで復活できる。
――他者に対して、命の保険であるジョーカーを使用してやる者がいないだけで。

亡霊がいないか神経を尖らせつつ、彼女へも意識を傾ける。
プレイヤーが死ねば、俺は任務を完遂できなくなる。
どのような形であれ世界は終末へと向かうのだろうが、怠惰な滅びほど見るに耐えないものはない。

終わらせるのであれば、迅速に終わらせるべきだ。無為に苦しめるなど、悪趣味にも程がある。
創造主のための誕生パーティーは、始まる前に破綻してしまっているのだから。

警戒すべきエリアを抜け、明日の探索について計画を練る。

この世界の法則上、元の世界に帰るための専用のキューブがあるはずだろうと結論付け
毎日のように、プレイヤーと共に現ゾーンの探索を行っているのだが
時折、彼女は酷く不安そうな顔をする。亡霊が出ない安全なエリアであってもだ。

この世界の全てを見て、全てを聞いているのだから、何をそこまで怯えているのか不思議だったが
話を聞いてみると、あちらの世界から見るこちらの世界と、実際に見るこちらの世界は有様が異なっているらしい。
また、先の見えないこの状況に恐れを抱いているようだ。

彼女の心が折れては困る。俺にはプレイヤーが必要だ。
何としても、プレイヤーを元の世界に帰さねばならない。

このような時、気休め程度の中身のない励ましの言葉は意味をなさないだろう。
そう考えた結果、俺なりに何を試すべきかを告げることにした。
手がかりが何もない状態ではあるが、物事は論理的に考え実行すべきだ。
天に祈って雨乞いなど、愚かにもほどがある。

このやりとりは、プレイヤーが暗い顔をする度に繰り返される。
俺の言葉に表情をコロコロと変えるプレイヤー。
本来、俺と彼女は会話をすることはできないため奇妙な感覚だった。

あちらの世界から俺を導いていた時とは異なる表情の数々。
物語に没頭する姿しか知らなかったからかもしれない。
顔を上げ、今後の対策について計画を立てる彼女の表情は活き活きとしていた。

彼女には、こちらの顔の方が似合っていると思う。

プレイヤーの顔が夕焼けにより、より複雑な色を持つ頃、ようやく拠点へと辿り着いた。
一つだけの取り返しがつかない命。彼女に無理をさせるわけにはいかない。
しっかり休息をとってもらうためにも、早々に立ち去ろうとしたところで、探索と先程の言葉に対しての礼を言われた。

彼女を元の世界に帰すこと――正しくは、元の世界に帰らせ俺の任務の助力をしてもらうこと――が、こちらの目的でもある。
俺にはプレイヤーが必要であり、あくまでも自身の利益に乗っ取った行動だ。
わざわざ礼を言われる筋合いはない。律儀な奴だ。

「礼は不要だ。俺にもお前が必要だからな」

正直に告げると、プレイヤーの頬が少し赤みを帯びた気がする。
プレイヤーの肉体は、激しく動いたり、感情が高ぶると色を変える。
導かれていた時には見たことがない現象だ。

夕焼けとは異なる色が付いた理由は不明だが、その表情は不快なものではない。
別れを告げて、その場を去ると、後ろ髪を引かれるような不思議な気持ちになる。
周囲に亡霊でもいるのだろうかと辺りを見回すが、このエリアに堕落した存在の気配はない。

自身の不可解な感情を理解できないまま、再び歩み始める。
いつか、その理由が分かる日が来るのだろうか?

俺は許しの代弁者。
穢れた魂を滅ぼす者であり、必ずしも成し遂げねばならない神聖な任務を任されている。
創造主が生み出したこの世界を、あるべき形へと導かねばならない。

俺に与えられた使命は、それだけだ。
ただ、今この時だけは、プレイヤーを色彩溢れる世界へ帰すことだけを考えよう。
この痛ましい世界は、彼女には似合わない――。